第 1 章 _x0007_横断コーパス(I-JAS)と縦断コーパス(B-JAS)の意義と役割
ー日本語学習者のロールプレイにおける依頼表現ー
(共时语料库 与历时语料库 的意义与作用——日语学习者角色扮演中的请求表达)
迫田久美子 *
1. はじめに
「将来、私は中国と日本のワリバシ(→架け橋)になりたい」「先生は結婚しましたか(→していますか)」「私は辛いの(→辛い)ラーメンが好きです」など、日本語学習者は習得過程においてさまざまな誤用を産出する。しかし、この誤用には重要な意義があると主張したのはイギリスの言語学者 Corder(1967)で、今から 50 年以上も前であり、このような誤用も含む学習者特有の言語体系は「中間言語」と呼ばれた。この頃から、第二言語習得研究が盛んになり、日本においても 1970 年代末から日本語の誤用研究が始まり、第二言語としての日本語習得の研究が盛んに行われるようになった。
当初は、学習者の誤用から日本語を解明しようとする日本語学的な研究が多かったが、次第に習得順序や誤用の原因、そして習得過程への関心が高まり、研究者によって(学習者の)データ収集が行われた。
しかし、それぞれの研究で用いられたデータの多くは公開されず、また公開されたデータも収集基準が明確でなかったり、データ数が少なかったりなど、問題点も多かった。
1990 年代に入り、研究利用のための日本語学習者の大量の言語資料をデータベース化したコーパスが作成され、公開されるようになった。特に、従来の作文コーパスに加え、発話コーパスが登場し、学習者言語の研究の深化と拡大が進んだ。しかしながら、依然として「母語別·学習環境別のデータ数が少なく、母語が英語·中国語·韓国語に集中していること」「学習者の言語レベルが不明確で、コーパス間での比較が困難なこと」「学習者の情報がないため、学習背景が不明であること」などの問題点が挙げられた(詳細は、迫田他 2016 を参照)。
以上のような状况を背景として、「多言語母語の日本語学習者横断コーパス(I-JAS: International Corpus of Japanese as a Second Language)」(以下、I-JAS)と「北京日本語学習者縦断コーパス(B-JAS: Beijing Corpus of Japanese as a Second Language)」(以下、B-JAS)が誕生した。I-JASは、12 の言語を母語とする日本語学習者 1,000 人の横断コーパスであり、B-JAS は北京の大学の入学 1 年目から 4 年目までの 4 年に渡る日本語学科の学生 17 人 の縦断コーパスである。
本稿は、これら 2 つのコーパスの概要を示すとともに、それぞれのコーパスに基づいた研究を紹介することを通して、横断·縦断コーパスの意義と役割を明らかにすることを目的とする。
*北京日语学习者历时语料库“B-JAS”,是由日本国立国语研究所、北京外国语大学北京日本学研究中心,以及北京师范大学三家单位联合制作的追踪中国日语学习者成长过程的纵向统计历时语料库。
*B-JAS的数据已于2022年底在互联网上试验性地公开,并于2023年正式公开。本书稿是使用B-JAS语料库的进行教学研究的初次正式尝试。
*书中除了教育指导、使用教材、信念等学习者的心理和环境方面,还从语言学的多个方面鲜明地捕捉并分析了中国日语学习者的学习过程,有助于专家学者、日语教学机构及日语教学人员客观地了解中国学习者的日语使用情况。